2020年2月13日

テスト投稿

1928年にアレキサンダー・フレミングがペニシリンを発見して以来、人類は感染症に抵抗する武器として抗生剤を手にしました。その発見から100年近くたつ現在でもその重要性は変わりませんが、耐性菌の出現など深刻な問題もあらわれています。

身近に感じる問題として、抗生剤を摂取した後に下痢をしたことがある方も多いと思います。抗生剤による下痢の原因のひとつとして、腸内細菌叢が乱れることが挙げられます。医師が抗生剤を処方する際には整腸剤としてプロバイオティクスを一緒に処方することが多いのですが、実はその整腸剤が本当に抗生剤による腸内細菌叢の乱れを改善するのかどうかはよく知られていません。

今回ご紹介する研究は、抗生剤摂取後の乱れた腸内細菌叢をもとに戻すために、プロバイオティクスや自家糞便移植の効果を調べた研究です1)

抗生剤投与によりプロバイオティクスが定着しやすくなる(マウス)

この研究では、前半に実験動物としてマウスを用い、後半にはヒトで研究を実施しています。

まずマウスでは、2種類の抗生剤(シプロフロキサシン、メトロニダゾール)を2週間投与します。その後、3つの群に分け、そのうちの1つの群では、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)属(Bifidobacterium)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)のサプリメント(Bio-25、Supherb社)を毎日投与します。

具体的にはLactobacillus acidophilusLactobacillus caseiLactobacillus casei sbsp. paracaseiLactobacillus plantarumLactobacillus rhamnosusBifidobacterium longumBifidobacterium bifidumBifidobacterium breveBifidobacterium longum sbsp. infantisLactococcus lactisStreptococcus thermophilus の11菌種。

2つ目の群では、抗生剤投与前に採取した糞便を抗生剤投与終了の翌日に自家糞便移植します。3つ目の群では、プロバイオティクス投与や糞便移植も行わず、フォローアップします。

まず、プロバイオティクス投与により、これらの菌が定着するかどうかを調べました。糞便のqPCRによる解析では、特に抗生剤終了後1週間以内では1万倍以上も菌量が増加しました。部位別に調べると、上部消化管よりも下部消化管、粘膜側よりも管腔側でより多くの定着が見られました。

前回の記事で、抗生剤を用いずにプロバイオティクスの定着を調べた研究をご紹介しましたが、抗生剤を使用した後にプロバイオティクスを投与した方が、著しく多くの菌が定着することがわかりました。

プロバイオティクスは腸管粘膜に定着するか(マウスの場合)

プロバイオティクスが抗生剤投与後の菌叢の回復を妨げる(マウス)

次に抗生剤投与後の菌叢の変化を16S rRNAシークエンス解析を用いて調べました。

菌の多様性(Alpha diversity)や類似性(Unweighted UniFrac distance)を指標として解析したところ、抗生剤投与後何もせずに観察した群では、徐々に元の菌叢へ回復しましたが、28日間の観察期間では完全には元に戻りませんでした。自家糞便移植をした群では、より早い回復が見られ、ほぼ抗生剤投与前の菌叢に戻りました。一方、プロバイオティクスを投与した群では、ほとんど菌叢の回復が見られず、抗生剤投与直後の菌叢を維持していました。

予想外にも、プロバイオティクスの投与により抗生剤投与後の腸内細菌叢の回復が妨げられていることがわかりました。

ヒトでの抗生剤投与後のプロバイオティクス摂取の影響

後半はヒトでの実験です。21人の健康な成人に2種類の抗生剤(シプロフロキサシン、メトロニダゾール)を1週間経口投与した後、3つの群に分けました。

8人は前述のプロバイオティクスを1日おきに4週間摂取し、6人は抗生剤投与前に採取した糞便を抗生剤投与終了の翌日に自家糞便移植し、7人はプロバイオティクス投与や糞便移植も行わず、フォローアップします。そして定期的に糞便を採取し、さらに抗生剤投与終了の翌日と3週間後に上部・下部内視鏡検査で管腔側や粘膜側の内容物を採取します。

まずマウスのときと同様に、プロバイオティクス投与により、これらの菌が定着するかどうかを調べました。プロバイオティクス投与中の糞便中では、11種類のうち7つの菌で有意な増加が見られました。さらにプロバイオティクス投与終了後でもこれらの菌の定着が見られ、5ヶ月後でも数種類の菌は定着していました。また、抗生剤を用いずにプロバイオティクスを投与した場合よりも、より多くの菌が定着することもわかりました。

ヒトでもプロバイオティクスが抗生剤投与後の菌叢の回復を妨げる

次に抗生剤投与後の菌叢の変化を、16S rRNAシークエンスならびにメタゲノムシークエンス(MetaPhiLan2での菌の同定、Bray-Curtis)で解析しました。

抗生剤投与後何もせずに観察した群では、徐々に元の菌叢へ近づきましたが、半年後の観察でも完全には元の菌叢には戻りませんでした。

自家糞便移植をした群では、より早い回復が見られた一方、プロバイオティクスを投与した群では、逆に菌叢の回復が遅くなり、半年後の観察でも何もせずにフォローした群以上に抗生剤の影響が残っていました。この結果はマウスでの結果とほぼ一致するものでした。

そしてプロバイオティクス投与によりどのような菌が影響を受けたかを調べたところ、Clostridiales目の菌は少なくなり、Enterococcus casseliflavusBlautia productaは菌の多様性(Alpha diversity)と強い逆相関を認めました。

ヒトでも、プロバイオティクスは抗生剤投与後の菌叢の回復を妨げることがわかりました。

Lactobacillus属から産生される物質が菌叢の回復を妨げる

最後にプロバイオティクスがどのように菌叢の回復を妨げているかを調べました。

プロバイオティクスを5種類の選択培地で培養した後、それぞれの上清をヒト糞便の培養に添加しました。そして糞便の培養を8時間行った結果、5種類の選択培地のうち1つのみで糞便の培養が阻害されることがわかりました。その培地はLactobacillus属が好む組成でした。実際、複数のLactobacillus属を培養した上清をヒト糞便培養に添加しても、糞便の培養は阻害されました。

つまり、プロバイオティクス投与により菌から産生される物質が、抗生剤投与後の菌叢の回復を妨げている可能性が考えられました。

今回の結果では、病院で抗生剤が処方される際に下痢を予防する目的で一緒に用いるプロバイオティクスが、細菌叢の回復を遅らせている可能性が示唆されます。しかし今回の研究だけでは、本当に整腸剤が下痢を改善するメリット以上のデメリットがあるかどうかまでは分からず、さらなる研究が待たれます。

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Mykinsoラボは、医療機関で受ける腸内フローラ検査Mykinso Proを提供する株式会社サイキンソーが運営しています。
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参考文献

  1. Suez J, et al. Post-Antibiotics Gut Mucosal Microbiome Reconstitution Is Impaired by Probiotics and Improved by Autologous FMT. Cell. 2018; 174(6): 1406-1423.